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岡山地方裁判所 昭和25年(行)17号 判決

原告 竹本数市

被告 玉島税務署長

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十五年二月二十五日附でした原告に対する昭和二十四年分所得金額及び所得税額更正決定は、所得金額二十六万七千二十九円、所得税額八万四千三百九十一円を超える部分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求の原因として、被告は昭和二十五年二月二十五日附で原告に対し、原告の昭和二十四年分所得金額を金百六万四千九百円、これに基く同年分所得税額を金六十一万七千三十一円とする更正決定をして、その頃原告に対しその通知書を交付した。しかし原告の計算によれば、原告の昭和二十四年分所得金額は二十六万七千二十九円であり、これを基礎として法定の各控除をした上で算定した同年分所得税額は八万四千三百九十一円であつて、被告がした本件更正決定のうち右所得金額並に所得税額を超える部分は違法であるので、これが取消を求めるため本訴に及んだ。なお、原告は本件更正決定を不服として、これに対し、昭和二十五年三月二十三日被告を経て広島国税局長に対し審査の請求をしたが、爾来三ケ月以上を経てもその裁決がないので、原告は同年八月十四日本訴を提起したものであると述べ、

被告主張の本案前の抗弁に対し、本件審査請求を被告主張のとおり昭和二十六年三月八日に取下げた事実は認めるが、広島国税局長は原告のした審査請求に対し、前叙のごとく三ケ月以上に亘つて裁決をしていないのであるから、本件は行政事件訴訟特例法第二条但書の規定により、その裁決を経ないで訴を提起し得る場合である、従つて、叙上の本訴提起後にした原告の右審査請求の取下は本訴の適否に影響はない。と答え、

被告が本案に関し本件更正決定の正当事由として主張するところに対して、原告が昭和二十五年一月三十一日原告の昭和二十四年分所得金額を八万二十九円、これに基く同年分所得税確定納税額を三千七百七十円と確定申告している事実、第一の(イ)乃至(ニ)の事実は認める。第二の(ホ)(ヘ)の事実は認めるが第二のその余の販売は否認する。仮に右原告において認める第二の(ホ)(ヘ)の販売を含め、被告主張のような藺草及び藺製品の販売の事実があつたとしても、原告は昭和二十一年八月まで藺草、藺製品の販売を業としていたが、同月限り廃業してその後は化学肥料製造販売を業とする有限会社丸亀化学の取締役をしており、右廃業後における右商品の販売は、従前同商品の販売業を営んでいた時代の残商品を他人に譲渡したもので、右取引上の所得は所得税法上はいわゆる譲渡所得に属し、被告主張のように事業所得ではないと述べ、

抗弁として仮に原告が藺草及び藺製品の販売を業としてその主張の藺草、藺製品の各販売をしたとしても、原告は、昭和二十五年八月九日被告に対し原告の昭和二十四年分所得額を二十六万七千二十九円、これに基く同年分所得税納税額を八万四千三百九十一円とさきにした確定申告を修正して確定申告しており、原告の昭和二十四年分所得額及び所得税納額は右修正確定申告により確定し、被告が同年二月二十五日附でした本件更正決定の所得金額及び所得税額は、右修正確定申告額を超過する範囲において失効すべきものである、と述べた。

被告指定代理人は、本案前として、原告の訴を却下する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、その抗弁として、原告が本件更正決定を不服として、これに対し昭和二十五年三月二十三日被告を経て広島国税局長に対し審査の請求をしたが、爾来三箇月以上を経てもその裁決がないので、原告が同年八月十四日本訴を提起したことは原告主張のとおりであるが、原告はその後、昭和二十六年三月八日右審査の請求を取下げたので、法律上該請求は当初からなされなかつたことになる。従つて、本訴は行政事件訴訟特例法第二条の訴訟要件を欠く不適法な訴で却下されるべきものである。と述べ、

本案につき、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、答弁として、原告主張の請求原因事実中被告が原告主張どおりの更正決定をして、その頃原告に対しその通知書を交付した事実は認めるが、その余の事実はすべて否認する。と述べ、

本件更正決定の正当事由として、原告は昭和二十五年一月三十一日被告に対し、原告の昭和二十四年分所得金額を八万二十九円、これに基く同年分所得税確定納税額を三千七百七十円と確定申告しているが、実際の所得はこれと異つている。すなわち、

第一、原告は昭和二十四年中において、

(イ)  所得税法(昭和二十五年三月三十一日法律第六十九号による改正前の所得税法、以下同じ)第九条第三号に該当する同号の規定で計算した臨時配当所得額金八百二十九円、

(ロ)  同条第四号に該当する同号の規定で計算した給与所得額金三万六千円、

(ハ)  同条第七号に該当する同号の規定で計算した織機の譲渡所得額金七万六千八百五十円、

(ニ)  同条第九号に該当する同号の規定で計算した事業等所得額として貸金によるもの三万四千四百三十六円、不動産によるもの二万八千八十円

の各所得を得ており、

第二、原告は藺草及び藺製品の販売を業として、

(イ)  昭和二十四年三月中訴外桐野栄太郎を通じ、訴外吉川初次に対し、藺草一等六藺百八貫を代金四万一千四十円、同二等六藺七百九十一貫九百匁を代金二十七万七千百六十五円、同ドホ二百八十一貫二百匁を代金十万六千八百五十六円、同トボ百九十九貫を代金五万九千七百円、同ホグリ百六貫四百五十匁を代金二万九千八百六円、長藺二百九十八貫三百匁を代金十六万八千十四円、同一等六藺九百十五貫六百匁を代金三十六万六千八百十四円でそれぞれ売渡し、その頃その代金合計百四万九千三百九十五円を受領し、

(ロ)  同年二月上旬訴外桐野栄太郎を通じて訴外佐々木実衛に対し藺草一等六藺四百貫を代金十六万円で売渡しその頃該代金を受領し、

(ハ)  同年中訴外中原貞一を通じて訴外山崎市太郎に対し藺草四百貫余を代金二十四万八百二十一円で売渡し、その頃内金七万円の支払を受けその余の未払分は売掛代金債権として残存し、

(ニ)  同年六、七月頃訴外藤原義美に対し藺上敷二百二十六本を代金六十五万円で売渡し、同年十二月末日までにこれが代金全部を受領し、

(ホ)  同年中訴外岡本養一に対し、藺草約二十二貫を代金一万三千九百二十円で売渡し、その頃これが代金を受領し、

(ヘ)  同年中訴外松三哲男に対し、藺草約九百六十貫を代金三十六万千三百八十円で売渡し、その頃これが代金を受領している。

しかして、以上による売上代金は所得税法第九条第九号に該当する事業等所得であつて、その総額は二百四十七万五千百十六円であるが、これ等商品の仕入価格は五十三万六千二百十九円七十七銭であり、他に荷造費、旅費、通信費、運賃等として二十一万一千四百五円費しており、原告の右各販売に要した必要経費総額は七十四万円七千六百二十四円七十七銭となるから、前記第九号の規定で計算した金額は百七十二万七千八百九十一円二十三銭となる勘定である。

右事業等所得百七十二万七千八百九十一円二十三銭に前叙第一の(イ)乃至(ニ)の各所得金額を加算すると、原告の昭和二十四年分所得金額は百九十万四千八十六円二十三銭となり、従つて、被告が原告のさきに申告した原告の昭和二十四年分所得税確定申告所得金額を右所得金額より遙に下廻つた百六万四千九百円と認定更正し、これを基礎として所得税法上の法定の各控除をし、その確定申告所得税額を六十一万七千三十一円と更正したことについては原告主張のような違法はなく、本件更正決定は正当である。と述べ、

原告の抗弁に対し、原告がその主張のとおり、原告の昭和二十四年分所得額及び所得税納税額の修正確定申告をした事実は認めるが、これよりさき、本件更正決定によつて確定した原告の租税債務に対しては、右修正確定申告は何等影響を及ぼすものではなく、かゝる申告は法にいわゆる修正確定申告ではなく、単純なる意見の申出にすぎないと解すべきである。原告の主張するように解するならば、申告制度においては、納税義務者がした申告額の範囲内でのみ租税債務は確定することになつて、税務官庁のした賦課処分によつて租税債務は確定するものではないという結論になつて、所得税法第四十六条は空文に帰する結果となると述べた(各証拠省略)。

三、理  由

先づ被告主張の本案前の抗弁について考察するに、原告が本件更正決定を不服としてこれに対し昭和二十五年三月二十三日被告を経て広島国税局長に対し審査の請求をしたこと、爾来三箇月以上を経てもその裁決がないので原告が同年八月十四日本訴を提起したこと、原告がその後昭和二十六年三月八日右審査の請求を取下げたことはいずれも本件弁論の全趣旨によつて認め得られるところである。しかして、被告は右審査の請求の取下げによつて該請求は当初からなかつたことになり、従つて、本訴は行政事件訴訟特例法第二条の訴訟要件を欠く不適法の訴で却下さるべきものであると主張するけれども、同条の但書中には訴願の提起(本件では審査の請求、以下同じ。)があつた日から三箇月を経過したときは訴願の裁決を経ないで訴を提起することができると規定せられており、それは一の訴訟要件を定めたものではあるが、右規定を検討すれば訴願の提起後三箇月を経過してもなお行政庁が裁決をしなかつたという事実すなわちこの前提要件さえあれば、そのことだけで訴を提起し得るというのであつて、この要件を充す限り、訴提起後に訴願が取下げられ訴願がなかつたということになつたとしても、すでに提起せられた訴の効力には影響を及ぼすものではなく、訴訟要件の具備が一般には口頭弁論終結当時を標準とするのに対し、本件の場合は管轄の標準時期を定めた民事訴訟法第二十九条の規定と同様、その例外の場合の規定と解するのを相当と認めるので、右抗弁は採用しない。

つぎに、本案について審究するに、原告が昭和二十五年一月三十一日被告に対し原告の昭和二十四年分所得金額を八万二十九円、これに基く同年分所得税確定納税額を三千七百七十円と確定申告した事実、被告が昭和二十五年二月二十五日附で原告に対し原告の昭和二十四年分所得金額を百六万四千九百円、これに基く同年分所得税額を六十一万七千三十一円とする更正決定をし、その頃原告に対しその通知書を交付した事実、被告が本件更正決定の正当事由として主張する前記第一の(イ)乃至(ニ)の事実についてはいづれも当事者間に争いがない。

しかして、原告が藺草及び藺製品の販売により事業所得を得た点についての前記第二の(イ)乃至(ヘ)の事実について検討すると、そのうち、(ホ)(ヘ)の販売取引の事実については当事者間に争いなく、(イ)乃至(ニ)の販売取引の事実については、成立に争いのない乙第一号証の一、第二号証、第三号証の一、二、第四、六、八、九号証、証人吉川初次の証言により成立を認める乙第一号証の二、証人山林保三、藤井博、大森正之、溝手泰平、米沢久雄の各証言を綜合してこれを認めることができる。右認定に反する原告本人の供述は措信し難く他に右認定を覆すに足る証拠はない。しかして、以上第二の(イ)乃至(ヘ)の藺草及び藺製品の売上代金総額は二百四十七万五千五百十六円となるところ、右各販売に要する必要経費の総額が七十四万七千六百二十四円七十七銭であることについては原告の明らかに争わないところであるから、右売上代金総額から、該経費を差引いた原告の所得がその主張のように百七十二万七千八百九十一円二十三銭となることは計数上明らかなところである。

よつて、右所得が所得税法第九条にいわゆる事業等所得であるか否かを案ずるに、原告は、右各販売行為は、原告が昭和二十一年八月それまでしていた藺草及び藺製品の販売業を廃業して当時の残商品を右のように売渡したものでその所得金は同条にいわゆる譲渡所得に属し、被告主張のように事業所得ではないと主張するけれども、原告主張の右廃業の事実については成立に争いない甲第一号証をもつてしてはこれを肯認するに足らないし、原告本人のこの点に関する供述も措信し難い。かえつて、成立に争いない乙第三号証の一、二、第四、六、八、九号証、第二十三号証の一、二、に本件弁論の全趣旨を綜合すると、原告が将来の値上りを見越して大量の藺草、藺製品等を貯蔵していて、前段認定のとおりこれを数次に亘つて販売し、多額の利益を得ていることが推認され、かれこれ考え合せると、前叙第二の(イ)乃至(ヘ)の事実は原告が藺草及び藺製品の販売を業としてしたものである事実を認めるに難くない。従つて、その販売による右所得額は被告主張のように所得税法第九条第九号にいわゆる事業等所得と認むべきである。

しからば、前叙当事者間に争いのない第一の(イ)乃至(ニ)の所得額に以上認定に係る事業等所得額百七十二万七千八百九十一円二十三銭を加算すると、原告の昭和二十四年分所得額は被告主張のとおり百九十一万四千八十六円二十銭となる勘定であつて、被告が原告のさきにした前叙昭和二十四年分所得税確定申告の所得金額を当時の資料に基き右所得金額より遙に下廻る百六万四千九百円と認めて更正した本件処分については、原告主張のような違法はないものと認むべく、また右認定更正額を基礎とすれば、これに対して所得税法上の法定の各控除をして計算したその所得税額が六十一万七千三十一円となることについては、原告の明らかに争わないところであるから、本件所得税額の更正決定についても原告主張のような違法はないものというべきである。

原告は昭和二十五年八月九日被告に対してさきに申告した昭和二十四年分所得税確定申告について、その主張のような叙上の修正確定申告をしたから、原告の同年分所得額並に所得額は右修正確定申告により確定し、被告が同年二月二十五日附でした本件更正決定の所得金額及び所得税額は、右修正確定申告額を超過する範囲において失効すべきものであると主張するけれども、行政処分たる本件更正決定の効力がその後になされた原告の右修正確定申告によりこれに抵触する範囲で失効するというようなことは、行政処分の特質殊に成法上到底容認し得ないところであつて右主張は採用しない。

以上説明のように、本件更正決定は正当であり、これが変更を求める原告の本訴請求は失当であるので、これを棄却すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 井上開了 辻川利正 富田善哉)

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